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ろ過の話(その2) 〜加圧ろ過と真空ろ過〜

2021.01.13カテゴリー:ろ過の知識

ろ過の話(1)で、ビート糖製糖工場でキャンドルフィルター(candle filter)やフィルタープレス(filter press)、リーフ・フィルター(leaf filter)といったろ過器が使用されていることを紹介しました。

 

ここで言うfilterは、Optical FilterやChemical Filterなどのように光の波長や化学反応などによって分離、除去する技術ではなく、物理的に固液分離や除塵を行うバリアーフィルター(barrier filter)です。

 

filterは、日本語で「ろ過」と訳してしまえばいいわけですが、英語には、filterと同じような意味で、riddle, sieve, strainといった単語があります。riddleもsieveも「ふるい」と訳されていますが、前者には弾丸などで穴だらけにする、といった意味の使い方もあり、後者には名詞として使用して「浄化」「貞節」といった意味があるように、後者の方がより細かに「漉す」場合に使われます。「シービング」(sieving)というと小麦粉を篩い衣で漉すことを言ったりするので、「分級」= classificationに近い意味も持ちます。strainも、「配管のストレーナー」などと言う使い方で分かるように「漉し取る」といった意味合いになります。(余談ですが、riddleには「謎」や「判じ物」といった意味を持つ別の単語があり、かのハリーポッターの闇の帝王ボルデモ-トの少年時代の名前Tom Riddleはその別の意味が命名の背景にあるのかもしれません。)

 

filterは言わばこれらの総称ということになります。

 

但し、英語圏でfilterと言う時は、filterを行う装置を指すことが一般的で、一方日本では「フィルター」はろ布などのろ材を指すのが一般的です。ろ布やろ材を指す英語は「フィルター・メディア」filter mediaになります。文字通り「ろ過」= filterの「媒介物」= mediaと言うわけです。

 

filter mediaを用いたろ過には液体や気体がmediaを通過するために圧力差が必要になります。

 

例えば、通常のリーフ・フィルターは、その設置場所からも分かるように、上の階から自然落下で流れてくる液体の圧力でろ材を介して個液を分離する装置で、茶こしでお茶を入れるのと同じ原理です。この様に大気圧で自然に行うろ過を重力ろ過 = Gravity Filtrationと言い、装置としてはバイブレーション・スクリーン、ヌッチェフィルター、トレー・フィルター、リーフ・フィルター、などがあります(バイブレーション・スクリーン以外は加圧タイプや吸引タイプもありますが)。

 

大気圧による液体の自然落下だけではろ過圧が足りなくなると、機械的に圧力差を高める必要があり、その様な圧力差をどのように作り出すかによって様々なろ過装置が考案され分類されることになりました。即ち、加圧ろ過と真空ろ過です。加圧ろ過はろ材の上流側からスラリーに圧力をかけ高い一次圧を形成し、真空ろ過は逆にろ材の下流側に低い二次圧を形成して圧力差を作り出すものです。

 

加圧ろ過には、フィルタープレス、multi roller press = ベルトプレスなどがあり、真空ろ過には、真空トレーフィルター、ドラムフィルター(通称オリバー) = RVD (Rotary Vacuum Drum Filter)、ディスクフィルター = VDF (Vacuum Disk Filter)、真空水平ベルトフィルター = HVBF (Horizontal Vacuum Belt Filter)などがあります。

 

加圧ろ過の一般的な特徴としては、以下の点があげられます。

 

  1. バッジ運転である
  2. (gravityろ過を除いては)ケーキの含水率を最も低くすることが可能
  3. (高度に自動化された装置を除いては)完全な自動運転が難しい
  4. ろ過対象に応じて糸の種類や織り方を選ぶことが出来ろ布の選択肢が多い一方でろ布の加工が比較的難しい

 

真空ろ過の一般的な特徴としては、

  1. 連続運転が可能
  2. 加圧ろ過と比較しケーキの含水率が高い
  3. 比較的自動運転が容易
  4. 縦方向の強度と走行安定性が要求されるためろ布の選択肢が限られる一方ろ布の加工が容易

 

加圧ろ過と真空ろ過

 

以上のように、ろ過器の種類は多岐にわたります。それら多岐に渉るろ過器には、遠心分離器に使用されるウエッジ・ワイヤーを除いては繊維素材のメディア=ろ布が使用されています。

 

そのろ過器やろ布の選択に当たっては、ろ過の目的、例えば、ケーキが製品になるのかそれともろ液が製品になるのか、どの程度のろ過精度が要求されるのか、そして液体のPHや固体の物性はどうか、などを考慮する必要があります。

 

ろ過の話(1)で、ビート糖製糖工場の石灰マッドの脱水にフィルタープレスが使用されていることを紹介しましたが、もともとこの工程では真空ロータリードラムフィルター(RVD = Rotary Vacuum Drum Filter)が使われていました。24時間運転するキャンドルフィルターから石灰マッドが連続して出てくるので、連続運転が可能なRVDがいいだろうとのことでしたが、RVDや真空水平ベルトフィルター(HVBF = Horizontal Vacuum Belt Filter)と言った真空引きのろ過器で有機スラリーを処理すると十分な圧力差が得られず、含水率を十分には下げられないのが問題でした。ここで言う含水は即ち糖蜜のことで、ろ液が製品になるものですから、含水率を下げること即ちろ過液である糖蜜をより多く回収し製品化することが要求されていました。

 

そこで、RVDから自動化されたフィルタープレスへの転換が行われたのです。